「『もしも明日世界が終わるとしたら』ぁ?」
私はこくりと頷き、やたら壮大な音楽と共に下から上へと忙しなく流れていく白い文字を追っていた視線を右隣で怪訝な顔をする彼に移す。
半年ほど前『制作費何億!』だの『ナントカ賞ナントカ部門ノミネート作品!』だのと仰々しい肩書きと共に話題になっていたその映画は、実際に見てみればお世辞にも面白いとは言えず、まるで既に出し尽くされた名作の良いところだけを切り抜いて子どもの落書きの上に糊ではなくマスキングテープか何かでテキトーに貼り付けたような、それはそれは退屈極まりないものだった。
期待値が大きいほどがっかりする確率は増えていくのはあたりまえと言えばあたりまえなのだが、そう感じていたのはどうやら私だけではないようで、隣で2時間半にも及ぶ超スペクタクルを見ていた彼も割りと序盤の方から欠伸が10分に1回くらいのペースで出始め、中盤にさしかかった辺りからうとうとしていたのを私は見逃さなかった。
これ、ほんと映画館に見に行かなくてよかったな。配信になるまで我慢してよかった。
作った人には悪いけど、そう思わずにはいられない。
「なんか案外難しいこと考えて生きてんだな?ちゃん」
目を細め訝しげにぴくりと眉を動かすライアンに私は肩を竦めて見せる。
「いや、普段から考えてないよそんなこと。映画観てて聞いてみたくなったから聞いてみただけ」
「えっ、そういう映画だったっけコレ?俺半分寝てたからぜんっぜん覚えてねーわ」
「…うっわぁ」
「仕方ねーだろクソつまんねぇんだから」
呆れてぽかんと口を開ける私を尻目に彼は行儀悪く投げ出していた足を組み、ソファの背もたれに上半身を委ねる。
同時に船に乗った時のようなゆらぎが静かに私を襲った。
「…んで?なんだっけ?世界が終わるとしたら?だっけ?」
「うん。ライアンは何する?」
「っていうか~そもそも終わらせねーよ、ヒーローなめんな」
「いやいや、そういうの今いいから」
「なんだよ~俺のこと信頼してねーの?」
「ほんっとめんどくさい男ねあんた」
「お褒めにあずかり光栄です」
「よきにはからえ」
わざわざ体を起こし、仰々しく頭を垂れるライアンの肩をぽふぽふと強めに叩いてみると、暫くの沈黙の後、どちらからともなく笑い声が上がった。
そんな至極どうでも良いやりとりをしているうちにエンドロールも終わり、ホーム画面に切り替わる。
気がつけばカーテンの向こうからはうっすらと茜色が差し込んでいた。
もうすぐ日も暮れる。夕飯の買い出しついでに散歩でもしよう。
私が頭の中でこれからの行動の段取りを決めながら大きく伸びをすれば、彼は今日私が見た中でも最大級の欠伸を零した。
「…………んまぁ、とりあえず」
その欠伸が終わるか終わらないかの境界線。
ふにゃふにゃとしゃべり始めた彼に、はっきりしゃべれと心の中で悪態をつきながらも「うん?何?」と問う。
てっきりうやむやにされたとばかり思っていた先刻の私の質問に答える気になったようで、気分屋の彼は「近くに来い」という主旨のジェスチャー(推測)をし、従順な私はそれに従うべく腰を浮かせて気持ち彼の方に詰めた。
それと同時にやや強引に左手を取られ、自然と隣に座るライアンの顔を間近で覗き込む形になった私が「ちょっとなにすんの」と小言の一言でも言ってやろうとしたまさにその瞬間、
「キスはしとくかな」
少し掠れた低めの声で呟いて、目を閉じる余裕も与えられず塞がれた唇。
そのじわりと伝わってくる熱を感じながら、私が『こんな映画観るんじゃなかった』と今一度後悔したのは言うまでもない。