「何でコンビニって夏におでん売らないんだろう」
「そりゃあ夏に売ってても買う奴居ねぇからだろ」
私の呟きに対し、麺類のコーナーから冷やし中華を迷いなく取りながら元親は答える。
さっきまで汗でべたついていた腕が粟立つ。肌寒い。でもそれは冷房がガンガンに効いているこのコンビニの中でも、とりわけ冷え冷えな要冷蔵の商品が陳列されているコーナー前だけの話であって、外気温は午前の段階ですでに30度を超えている。
現に昼食を求めて大学の前にあるここまで歩いてくる数分間でも汗だくになった。だから冷やし中華を選ぶという彼の行為ははちぐはぐでもなんでもなく、世間的には賞賛されるべき模範的選択なのだ。なんか悔しいけど。
「そんなのわかんないじゃん。私は食べたい時あるよ。今だって食べたい。だから別に年中売ってても良くない?」
「うるせー、俺は冬でも冷やし中華食いたくなる時あるけど我慢してんだからも我慢しろや」
「なにそれ答えになってないんですけど」
「テメェは季節感ってのをもっと大事にしろ」
至極うんざりした様子で元親は眉間の皺を更に深くする。それから「早く選べよ」と急かすように吐き捨て、隣のおにぎりコーナーからたらこを取った。四角い袋に入ってるやつじゃなく、三角の。それを見て私は『ああ、バイトの給料日前か』と余計な推測をする。元親が言う季節感とやらはきっと死んでもわからないが、彼の行動からお節介なことを考えるのはすっかり得意になっていた。考えが手に取るようにわかる。もはやひとりの人間と言ってもおかしくないくらい。いや、それはさすがに言い過ぎか。あと、それだときっと今のようなしょうもないやり取りもできないし、おでんが食べられないのに加え更につまらない夏になる。だからこちらからご遠慮願おう。
「あっつい」
会計を終え、自動ドアが開いた瞬間吹き込んできた熱風に顔をしかめる。
結局妥協して買ったオムライスと麦茶が入ったビニール袋が私の醜態をあざ笑うかのように鳴った。
「あーあ、私も冷やし中華にしとけばよかった」
「だろ?やっぱ大事にしろや、季節感を」
ふふん、と得意気に笑う横顔が日光と重なり眩しくなる。
太陽。熱風。冷やし中華。ふーん、なるほど。確かに悪くはない。
今しか見る事の出来ない、これからきっと何度も見ていくであろう光景を、今日のところは素直に目に焼き付けておくとしよう。
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O.N.E ちぐはぐ/わからない/自動ドア(title:フジファブリック)