「そういえば、昨日の夢に出てきたよ。三成が」
端っこが微妙に焦げてしまったトーストにバターを塗りながら私が言うと、小ぶりな茶碗をすでに空にし、新聞に目を通していた三成は一瞬ちらりと私の方に視線を寄越したが、またすぐに紙面へと戻した。
あ、やばい。バター塗りすぎた。でもまあいいか、通勤するだけでそれなりに体力を使うんだから多少のカロリーオーバーなんて。あと別に私は恋に恋する思春期の乙女でも何でもない。そもそもそんな微々たるもの、気にしなくていい。
誰にするでもない言い訳をつらつら脳内で並べ、私は三成の反応を待つ。しかし待てど暮らせど返事はなく、ただ部屋の中には新聞の乾いた音だけが響いていた。
「……。あのね、昨日のォ、夢にィ」
「聞こえている」
語尾をわざと強調して言い直す。すると彼は心の底からうんざりした様子で、その切れ長の目から放つ視線と同じくらい冷たい言葉を被せるのだった。
「聞こえてんなら何か反応したらどうなの?気にならないの?夢の中でどんなことしてたか?」
「現実でない物の話など全く気にならん。戯言は良いから早くそれを食え。先に出る」
「待って、わかった、食べるから、待って。5秒で食べるから置いてかないで」
慈悲もなくぶん投げられた脅しの言葉に焦る私。それを見て、三成は丁寧に新聞を折りたたみ、自分の使った食器類を流しへと持っていく。
脅しに屈した愚かで従順な私は彼が立てる洗い物の音を聞きながら、味わうとかそういう暇も余裕もないまま状態のよろしくないトーストを口の中にぎゅうぎゅう押し込んだ。
「はべまひた!」
「咀嚼しながら立つな。喋るな」
「はひ」
と言いつつ、お叱りの言葉に反してむぐむぐと口を動かしながら自分の使った食器を三成に倣い流しに運ぶ。
腕時計を見る。気づけば家を出なければならない時刻は目前だった。出勤前は時間との闘いである。まあそんな中で何でもない話題を振った私がバカだったのだが。今日のところは潔く認めよう。
食器を洗うついでに朝から抱いてしまった微妙な気持ちも洗い流すべく、三成の手から泡のついたスポンジを受け取る。
その際ふと目に留まった、捲られたワイシャツから覗く適度に男らしさを感じる太さの腕。
数え切れぬほど見て、触れて、触れられてきたそれに、夢の中で見た彼を静かに重ねる。ああ、うん。成程、確かに、
「……まあ、リアルが一番だよね」
「…………。何が言いたい」
「いやいや、こっちの話~」
依然として何か言いたげに佇む“現実”を横目で見て、私はわざとらしく笑って見せる。
容赦なく迫りくる、別の悲しい現実に向き合う時間によって、私の中でのみ存在する虚像もきっとすぐに消えてしまうのだろう。
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Lucky 夢の中/恋/男らしさ(title:スーパーカー)