「植物を育てるってどういう気分?」
数年前、彼の部屋に初めて招かれたときの自分にはこうなるなんて想像できるはずがなかった。殺風景という言葉は彼の部屋を表すために存在するのだと思ったほど何もなかった部屋は、今や大小様々な観葉植物が所狭しと置かれ、小さなジャングルと化している。
シュッシュッと軽い音を立てて自分の手のひらより大きな葉っぱに霧吹きをかけるバニーちゃんに問うと、「はい?」とこちらに関しては私の予想通りの反応が返ってきた。
「どういう気分?育てるって」
「いや…育てるという感覚よりは共存してるという感覚に近いので。僕の場合は」
「それって違うこと?」
「恐らく」
「ふぅん」
わかったようなわかんないような。
バニーちゃんの言葉はいつだって少し難解だ。難解なくせに、たまに妙にわかりやすい。そういうところが、まあ、いいんだけど。
彼に歩み寄り、隣に並んでしゃがんでみる。横目でちらりと見られたので、「貸して」と彼の手から半ば強引に霧吹きを奪い取り、見よう見まねで噴霧する。シュッシュッ。実際やってみると、音のわりに手ごたえは重い。
「、やりすぎです」
バニーちゃんは焦った様子で止めようと私に手を伸ばすが、それをうまく躱しながら立ち上がり、上の方からも噴きかける。単調な作業だが、それゆえちょっと癖になる。
「いいじゃん、大は小を兼ねるって言うし」
「植物は繊細なので、」
「へえ、誰かと同じだね」
私は試しににやりと笑って見せる。眼鏡の奥の瞳がしばらく何か言いたげに揺れていたが、言葉の代わりに彼の口から出てきたのは小さなため息だった。
「……というか、いきなりそんなこと聞いてどうしたんですか?も植物に興味が?」
「いいや、星占いに『植物を愛でろ』って書いてあったから」
「そんな理由」
「うん。そんな理由」
答えると、彼はやれやれと肩をすくめ、それからふっと口元を緩めた。この表情もまた、彼と初めて会った時のしかめっ面からは想像し得なかったものだ。
共存。共に存る。それはたぶん、きっと、恐らく、わかんないけど、人気の占い師でも想像できないことが沢山起こっていくのを共に見届ける事なのかもしれない。
また難しい顔に戻って「やっぱり掛けすぎだ……」とぼやくバニーちゃんを見ながら、私は彼の表情に負けず劣らず難しいことを考えてみる。
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醒めない 繊細/育てる/占い(title:スピッツ)