「しょーもない話だったわ」
曰く、先日変えたばかりという古びたメダルのような色の爪で鼻の先を掻きながら言うさんに「俺はけっこー面白かったですけどね」と小さく零すと、凍てつくような視線が眉間のあたりに突き刺さった。
エンドロールが流れ始めた野外シネマからは、ぱらぱらと離席する人が見られる。
本日上映されていた作品(数年前に流行った切ないラブストーリー)がお気に召さなかったらしいさんは、前の段に座っていた人が退くやいなやドカッと脚を投げ出して、むすっとした顔で腕を組んだ。
「大体あの男、何なの?何で最後まで彼女に言いたいこと言わないの?」
「えーと」
「ラストのあの悲しみに満ちた顔!レオ、見た?意味わかんない」
「はー」
「そもそもハッピーエンドじゃないのがクソよクソ」
「口が悪いっす」
「クソのことをクソと言って何が悪いんじゃ」
と、まあヒューマーの世界では放送禁止用語に該当するようなよろしくない単語を次々に並べて作品を酷評するさんだったが、暫く喚くと、一通り言いたいことを言って満足したのか、伸ばしていた脚を抱えて口をきゅっと真一文字に結ぶ。
電池切れのようにも見える急変したその姿にやや不安を抱き、「あのう……大丈夫ですか?」と訊ねるも、彼女はこくりと頷いただけでそれ以上何も言うことは無かった。
ただ横で話を聞いていただけなのに何故だかどっと疲れが押し寄せる。ふう、と息を吐いて、俺は恐る恐る口を開き、続けて問いかけた。
「てかさん、ハッピーエンドが好きなんすね。てっきりそういうのに拘りない人だと思ってました」
さんは俺の発言を受けて一瞬じろりと睨んだが、すぐに何かを考える素振りを見せ、視線を傍らに置いていた飲みかけのジュースに落とした。
「そうね」
それは壮大なメインテーマに搔き消されそうなほど小さな声だった。
「何か理由とかあるんですか?」
「……ハッピーで終われないのがわかってるからこそ、フィクションくらいはハッピーな結末の物が見たいのよ。私は」
言い終えたのと同時に、エンドロールも終わってスクリーンに闇が戻って来る。
だが、さんはそれでも尚じっと何も流れていない暗いスクリーンを、まるで地平線の向こうに沈む太陽を見るかのようにじっくりと眺めていた。
この街にはそれぞれ多種多様な過去やバックボーンを抱えた人やそれに準ずるものが集まる。
俺もそうだし、だらしのない先輩だって、頼りになるボスだって、同僚のひとりであるさんだってそうだ。
俺の未だ知らない、彼女が心の奥底に仕舞っている部分と映画の結末。
それを重ねて何かを憂う横顔に、俺はただ「そうっすね」とありきたりな相槌を打つことしか、今はできなかった。
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満月に吠えろ メダル/悲しみ/大丈夫(title:チャットモンチー)