5分後のスターダスト


(『オーケストラを観にいこう』の後設定)
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いつかもこうしてふたりで歩いた気がする、懐かしい匂いのする道を行く。
あの時は確か、もっとたくさんの落ち葉が地面を覆いつくしていて、もっと寒くて、私の手も冷たくて、高層ビルに乗っかる中途半端に欠けた歪な月はまだ出ていなかった。
一昨日のお昼に何を食べたかはすぐに思い出せないくせに、こういう事は意外と鮮明に覚えているものだ。それは自分だけの記憶ではなく、自分と彼との共通の記憶であるが故か、はたまた偶々なのか。まあどちらでも構わないのだが。
乾いた音を立てつつ自分自身の記憶力に感心していると、右手の手のひらに柔らかな感触が当たり、そのままぎゅっと包まれた。
「えっ」
想定外の出来事だった。
驚いて思わず声を上げると同時に、記憶の中よりも近い場所で私と同じ速度を保ちながら歩くイワンを見ると、彼のアメジストは丸く形を変えた。
「え、あ、ごめん……?」
「えっ、何で『ごめん』?」
「え、だってちゃんが『えっ』て言うから」
「えっ、私のせい?」
「え、いや、あの、違うけど」
フェードアウト。イワンは言葉を濁して、視線は私から逸らしながらも私の右手を包む左手は固く握ったままだ。
あの時はまだ知らなかった彼の意志の強さを受け入れて、歩みを進める。
記憶の中の風景も愛おしいが、それでも今自分の目に映っているこの現実には敵いやしない。そんなことを思う。
「もう、しょうがないなあ」
頭にちらりと浮かんだちょっとだけ恥ずかしい事を誤魔化すように笑うと、強張っていたイワンの表情もいくらか和らいだようだった。
「……ちゃん」
絞り出すような声で私の名を呼ぶイワンは少しだけ困っている。しかし、それでいて満たされたような不思議な色の瞳をゆらゆら揺らす。
それは5分後には消えてしまう儚い蠟燭の灯にも、本物の星がほとんど見えないこの街に何らかの奇跡が起きて空を覆うかもしれない星屑にも似ていると思った。
「なに?」
「えっと、……『ありがとう』」
の方が良いよね?
街灯の下、イワンは頬を赤らめて言う。枯れ行く季節の入り口に、ぴったりな色だった。
「……うん」
全身を包む幸福感。すべてをひとつの音に乗せて響かせる。次第に深まる季節の行き先は、ふたりの間にある結び目が知っている。

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5分後のスターダスト 手のひら/しょうがない/ゆらゆら(title:UNISON SQUARE GARDEN)