サンタ未満


「はい、これ」
帰宅した大和を玄関で出迎えると満面の笑みを浮かべ、挨拶もそこそこに謎の紙袋を顔の前に差し出された。
なんだか少し前にも似たようなことがあった気がするが、あれはいつだったか。ええと、そう。多分、長期遠征に行く前「寂しくならないように」とか言って、馬鹿に大きいくまのぬいぐるみを抱えて帰って来た時だ。
それ以外にも何でもない日なのにケーキや焼き菓子、ご近所さんからいただいたという果物なんかを持って帰って来ることがある。だが、このワクワクが目元と口元から存分に滲み出ている表情はそれらの消え物ではなく、彼曰く何か形に残る『良い物』の時だ。すっかり長くなった付き合いからそう推測する私は視線を紙袋と大和の間で数度往復させる。彼はその間も表情を崩さず、「開けてみて」と促した。
穏やかな口調ではあるが、彼の一度決めたことは必ず完遂させなければ気が済まない性分を微かに感じる。当然こちらに拒否権はない。もし試しに『いやだ』と言ってみたらどうなるんだろう。多少天邪鬼なところがある私は一瞬そんなよろしくないことを考えるものの、結局腹をくくって紙袋を手に取り恐る恐る隙間から中を除いた。
「そんなに険しい顔しなくても大丈夫だよ」と大和は笑うが、帰宅早々何かを押し付けられているこちらの立場ももう少し理解してほしいと思う。しかし、結果は彼の言葉の通りだった。サンタクロースや雪だるまが印刷されている賑やかな袋の中には、両の手のひらに載るサイズの小さなクリスマスツリーが入っていた。
「……。なんでまた、こんな……?」
形を崩さないよう配慮しつつ丁重に取り出しながら尋ねる。ツリーの方に意識が集中しておりうっかり紙袋を落としそうになったが、無駄のない動作で大和がキャッチをした。
「だってこの間、熱心に見てただろ?」
「え?いつ?」
「先週。一緒に買い物に行ったとき」
「……あ~……?」
うんうん。確かに見てた。相変わらず私をよく見ている。大和は私の行動に私以上に詳しいのではないかと思う時もあるほどだ。
大和が口にしたふたつのキーワードを頭の中で辿ると、わりとすぐに対象物が脳裏に浮かんだ。
近所のお宅の玄関に飾られていた立派なツリー。2メートルはあるであろう白いイミテーションの木に、青や銀を基調とした玉やリボンが提げられていた。大きくて存在感はあるが、飾り付けの色合いがおとなしめだからか上品な印象を受ける素敵なツリーだったのを、彼が言う通りじっと見ていたのでよく覚えている。
「うち、クリスマスらしい飾りが全然無いから。気に入ったみたいだし、丁度良いかと思って買ってきたよ」
さすがにあそこまで大きいのは置けないからこれで勘弁してくれと、大和は相変わらず子猫の名を呼ぶような優しい口調で言った。
それに若干のむず痒さを覚えつつも、私はツリーをいろんな角度から観察する。オーソドックスな緑の木に金と赤の飾りが付いている。かなり可愛らしいサイズではあるが、きちんとてっぺんには星が輝いているという中々凝ったデザインの代物だ。
先日ふたりで見たものと対になるような見た目のそれを手のひらに載せて眺めると、これはこれで素敵に思う。
だが、私は恐らく大和が望んでいないようなとても複雑な気持ちを抱いていた。

私が彼曰く熱心にツリーを見ていた理由。それは、別にツリーが欲しかったわけではない。ただ、飾り付け大変そうだなーとか、でも大和なら脚立を使わなくてもてっぺんの星に手が届きそうだなーとか、そんなしょうもないことを考えていたのだ。ずっと。
しかし、それを大和にわざわざ言うのも気が引ける。どれだけ親しい関係でも、黙っておいた方が上手くいくことも存外多い。私は彼と付き合う中でそれを少しずつ理解してきた。もっとも、彼の場合は一切隠し事なんてしないし、私が何と言おうとも全力で肯定するのだろうが。
そんなに私に甘くて大丈夫かな?
そう頭で心配はしながらも、心の中ではそんな彼を大いに信頼しているのも事実である。これもまた、黙っておいた方が良い事に分類されるのであろう。きっと、少なくとも今日の所は。

「……大和さー、私のこと、小学生くらいの女の子だと思ってる時ない?」
照れ隠しに皮肉を言いつつ、玄関の脇に真新しいツリーを飾る。
脱いだスニーカーを揃えながら「はは、そんなまさか」と大和は笑い、それからいつも通り私の頬にキスをした。 さて、私と違って嘘も偽りもないその笑みを浮かべながら、次は何を企むのだろう。ほんの少しだけ楽しみだ。 すっかりクリスマスムードに切り替わった玄関にて、私は彼に内緒でそんなことを考える。