初夏の青空というやつは気持ち悪いくらい澄み渡っていて、長時間見ていると不安になってくる。
あまりにも澄んでいるから、自分の本心を全て見透かされていのではないかという、我ながら馬鹿馬鹿しい考えが浮かんでくるのだ。
きっとあの眩しい青に溶ければ得体の知れない不安も恐怖も、そしてもうじきやってくる、夏休みとかいう名前の退屈だらけな日々への憂いも無くなるだろう。
あの色の一部になり、色から想像できる通りの冷たい気持ちで、見下ろす人々の受難を嘲笑う日々を送る。
そっちの方が良いに決まっている。
自分を縛るもの、目に映るもの、全てが他人事だと胸を張ってはっきり言い切れ、何事にも構わず邪魔されずに生きていけるから。
「シリウス、見っけ」
青に魅せられ、“空になるには”という壮大すぎるテーマについて考え始めた途端、芝生が擦れる音と、聞き慣れた声が鼓膜を振動させた。
「サボタージュして芝生のお布団でお昼寝ですか。なんという絵に描いたような青春」
は歌うように言うと、鼻歌まじりに早足で歩み寄ってくる。
芝生の香りが強くなる。
彼女はきっと、自分がつい先刻まで抱いていた醜くて馬鹿馬鹿しい思いなど知らずに無邪気に笑っているのだろう。いつものように。
(彼女のそんなところに青空と同じく惹かれるのも事実なのだが。)
「おはよう、シリウス」
自分の元に到達し、しゃがんで顔を覗き込んでくるが、一瞬彼女が背負う青空と同化したように見えた。
驚いて、思わず何度か瞬きをする。
2人の間を、心地良い風が通り抜ける。
(それにしても、)
「……」
「うん?」
「お前、ほんと狡いな」
「さぼってる奴に言われたくないんだけど」
は首を少し横に傾けて悪戯っぽくはにかむ。
「狡いよ」
シリウスもつられて笑った。
そして青空に沈む彼女の頬に、届くはずのない空に触れようとする時と同じように、そっと手を伸ばした。
簡単に触れることが出来た青空は、予想に反し、とてもとても暖かかった。