その恋、一方通行につき


「平和すぎる」
「平和が一番」
膝に置いた分厚い本から目を離すことなく、は嘆くシリウスにそう返した。

「退屈」
休日の談話室。窓の外には穏やかな青空が広がる。
殆どの生徒はこぞってホグズミートへ出かけており、普段は賑やかな声が至る所から聞こえてくる談話室も活気がなく、
2人以外には数人の1、2年生がそれぞれ課題をしたり本を読んだりボードゲームに興じたりしているだけだった。
「そう?私はほどほどに忙しい」
悲壮感に満ち溢れたシリウスの呟きに、は相変わらず淡々と切り返す。
「…そのようですね」
を一瞥し、呻くように言うとシリウスは今まで座っていたソファに俯せになり、クッションに深く顔を埋めた。
「ジェームズたちはどうしたの?一緒に遊べばいいじゃない」
シリウスからじわりと漂う、淀みきったオーラに呆れたように、が初めて本から目を離して問う。
「ジェームズは罰掃除」
クッションに顔を埋めたまま、もごもごとシリウスが答えた。
「……リーマスは?ピーターは?」
「2人で朝から図書館に篭って、リーマスはピーターが溜め込んだ課題を手伝ってる」
「ふぅん」
興味がなさそうに、相槌と溜息の中間くらいの声を発する。
「そして我が愛しの嬢は、本に浮気を」
「世の中にはひどい女も居たものねえ」
「ほんとだよ」
わざとらしいくらいに間延びしたの声に、シリウスは顔を上げてニッと唇の端を吊り上げる。
それにつられるようにも目をゆっくりと細め、ぱたん、と軽い音を立てて本を閉じた。
「あれ、アバンチュールはもうお終い?」
「今日のところは私の負けってことで」
ソファに寝そべるシリウスの髪に手を伸ばし、指に巻き付けたり撫でたりしながらが楽しそうに言う。
「どういう気まぐれだ?」
その指と自分の指とを器用に絡めながら、シリウスは少し不審そうな表情を浮かべての澄んだ瞳を捉える。
長期戦を覚悟した戦いは、の言葉によりあっさりと幕を閉じた。
「よく考えたら、本は私を愛してはくれないもの」
は首を少し傾げ、「まいった」と言うように肩をすくめて見せる。
「なるほど、」
シリウスはこの上なく、堪らなく愉快である。そんな風に笑った。

「俺の圧勝だな」