夜が長いと何だか損した気分になるよね。
南の空に浮かぶやけに明るい星を眺めながら白い息と共に小さな不満を吐くと、隣でおせちに入ってる海老みたいに背中を曲げて歩く元親が「そうか?」と怪訝そうな声を上げる。
「そうに決まってる」
「全く気にしたこと無ぇわ」
「もっと色々考えながら生きた方がいいよアンタは」
「あでっ」
若々しさの欠片も無い、曲がった広い背中に悪意だとかは一切なく、愛と渇を入れるつもりでバシッと左手を叩き込めば、元親の口から蛙が潰れたような声が出る。
掌から心臓へ。ぴりぴりとした衝撃が流れていくの同時に、かさついた唇が己の意志とは関係なく、緩んだ。
南から来た夏を愛する自称・海の男である元親は、笑ってしまうほど寒さに弱い。
私も大概寒がりだけど、おせちの海老みたいにはならないから、多分私の方が寒さには強いのだと思う。
でも「寒ぃ、寒ぃ」と呪文みたいに繰り返す割りにはその指先は暖かくて、すり寄るように頬を寄せた上着越しに伝わる熱は確かなもので、元々体温は高いのだろうなと、街灯に照らされる影をひとつにしながら私は元親の生態についての考察をする。
どれだけ長く一緒に過ごそうとも、いくら距離が0に近づこうとも、何度身体を重ねようとも、所詮私達は別々の人間。私が元親についてまだまだわからないことや知らないことは山ほどあるのだ。それが寂しくもあり、また同時に何故だか嬉しくもあるのだけれど。
「寒ぃ」
「それもう今日689回くらい聞いた」
「じゃああとうちに着くまで300回は言ってやるから覚悟しとけや」
そこは果たして誇らしい顔をすべきところなのだろうか。そう尋ねたくなるくらい、あの南の星の瞬きのようなきらきらの笑顔を浮かべる元親はやはり暖かい。
寒さを理由にして寄り添うにためには冬は必要不可欠であり、あの星があの星らしく瞬くためには夜が必要不可欠なのだ。
きっと。多分。恐らくは。
そんな自分でも吃驚するくらいテキトーなことを考えながら私は「はいはい」とまた白い息を吐いた。