ストロボライツ


「三成、笑って」
「出来るか馬鹿」
「知ってるけど」

でも馬鹿は無いでしょ馬鹿は。ふつふつと沸き起こる怒りを静めながら構えていたカメラを降ろし、満開の向日葵畑を背負って立つ三成に詰め寄る。「ちょっとは努力したらどうなの」「してどうなる」「私が喜ぶ」「知るか」「あと多分写真を見た半兵衛と刑部も喜ぶ」「巫山戯るな」「そして左近は腹を抱えて笑う」「貴様」嗚呼、最後のは余計だったか。後悔しても後の祭り。三成のゴキゲンをすっかり損ねてしまったらしい私は溜息を吐き、注射針のような冷たさの目で睨む三成に背を向け、泥濘の残る小径に向けて足を踏み出す。こうなってしまってはもうどうしようもない。三成の頭に昇った血が冷めるまで、そっとしておくに限るのだ。昼前に降っていた通り雨はすっかり止み、どことなく秋らしい哀愁の色を漂わせ始めた青空と鱗雲を眺めつつ、背筋を伸ばして咲く向日葵の花々や足元に多い茂る草の香りを胸一杯に吸い込む。成人してもう何年も経つけれど、やはり夏の終わりはそれなりに寂しいものである。この寂しさは夏の終わり特有の物だと考えれば愛おしくもなるけれど、これから先、何十回も夏が終わる度にこの寂しさを抱かなくてはならないのかと考えると少し厄介だとも思う。

「おい、。何処へ行く」
良い塩梅にノスタルヂックになってきた心を携え歩み続けながら、背中に問う三成に「あっちの方」と背中で返す。声色でわかる。三成は怒っている。でも、だからどうした。私だって怒っているんだ。三成は頑固だ。曲がった事が大嫌いで、浮ついた冗談を言うのも言われるのも好かない。くらげみたいにふわふわ漂いながら生きてきた私とは月と太陽くらい正反対の存在。だからこうして互いの主張がかみ合わず、言い合いになることも珍しくない。でも何故だろう。私はそんな時間も決して嫌ではないのだ。そんなことを三成に言ったなら油に火を注ぐことになるだろうけど。知ったこっちゃないわ。だって私も怒っている。私だって怒っているんだから。
「待て」
「待たない」
「待てと言っている」
「黙って付いて来りゃいいじゃんか」
そんなに私の事が好きならば。自分の肩越しに振り返り、相も変わらず不機嫌そうな面を下げて半歩前を付いて来る三成に告げると、苦虫を噛みつぶしたような顔をして、「…馬鹿が」と溜息混じりに言われた。
「貴様は何が気にくわない?」
「夏が終わること?」
「…それだけか」
「あと、三成がカメラを向けても笑ってくれないこと?」
「………」
「いや、何で黙るのよ」
予想外の反応に思わず吹き出してしまった私は立ち止まり、体を反転させ、三成の方へと向ける。咲き誇る向日葵の群れをバックに佇む三成はなかなかにシュールだと改めて思った。先程振り返ったときよりも開いた距離。それを再び詰めて、黙り込んでしまった口元へ手を伸ばす。真夏だと言うのに、南国の砂浜のようななめらかさのある肌が心底羨ましかった。顔色が悪いのは頂けないけど。掌の中で怪訝な顔をする三成の決して肉付きのよくない両頬を摘み、斜め上へと引っ張り上げる。なにをする。もごもごと悪態を吐く三成の表情は何とも形容しがたいほどに滑稽で、一度は収まったはずの笑いが再び込み上げて来る。ご、ごめん、つい。顔を足元へ逸らしながら告げた謝罪の言葉と共に振り解くようにして、三成は私の好き勝手し放題な両腕を捕獲し、ねじ伏せた。
「…三成はそのままでいいよ、やっぱり。うん」
「笑いを堪えながら言うな」
「ふふふ」
三成の主張を無視し、にやついたままの口元を申し訳程度に隠しながら、再び三成にカメラを向ける。「はいはい、笑って」「出来るか」うん、それでいい。夏は夏らしく。夏の終わりは夏の終わりらしく。三成は三成らしく。最初から知っていた。私はそれで満足だった。にこりともしないレンズの向こうの三成の代わりに、私はゆるりと笑って見せる。デジカメの画面に映った切り取られた顰めっ面がやけに眩しく思えるのは、西日のせいか、夏の終わりの魔法のせいか。三成に問えば何と答えるだろう。そんな事を考えながら、終わりゆく夏を切り取るためにシャッターを押す。

title:Strobolights(スーパーカー)