季節の変わり目が好き。俯せのまま、枕に顔の半分以上を埋めてがそう呟くと、三成は手持ち無沙汰にの髪を梳いていた手を止めた。皺になったシーツ。一昨日出した毛布。垣間見える白い背中。それらの上に勝手気ままに散らばる毛先は僅かな水分を含んでいる。肘や腕で踏まないよう細心の注意を払いながら三成はの表情がより見やすくなるよう体勢を変えれば、は再び鼻歌を歌うときのような軽さで言葉を紡ぐ。
「でも、夏が終わるのは嫌」
「意味がわからん」
うん、そう言うと思ったよ。が枕に口元を埋め、ころころとこもった声で笑うのを心底不思議そうに見つめる三成の指先は暫く空中を彷徨った後、毛布の狭間で揺れる、しっとりとした毛束のひとつを捉えた。季節の変わり目どころか、まるで季節をひとつ飛び越したような冷たさ。カーテンの隙間から流れてくる夜風が更にそれを際立たせているようだと三成は思った。昼間はまだ夏の残り香を漂わせる日が続くが、朝夜は冷え込むようになってきた。季節の変わり目。夏でも秋でもない、油断をすれば簡単に見落としてしまう窪みのような日々。それが創り出す曖昧な冷たさを持つ空気にが肌を粟立たせているのを捉えた三成は、毛布の端に手を掛けて、彼女の肩を覆うまで引っ張り上げる。その動作に驚いたのか、単純にくすぐったかったのか。身じろぎをして答えるは一体どちらか。三成にはわからなかったが、「ありがとう」と遠くから聞こえる虫の声のように小さく礼を述べる彼女に無言で頷き答えた。
「毛布、出したんだね」
「ああ」
「私の、ために」
「…………」
「私の、ため、にっ」
口を噤む三成の口元を面白がって抓ろうと伸ばしてくるの指先を払いのけながら三成は「よせ、」と声を荒げて拒否をする。よせ、よさない。よせ、よさない。寄せては返す波の如く無益な戦いを暫く繰り広げた後、全く、素直じゃ無いんだから。駄々をこねる子供を諭すような口調で言って、腕を毛布の中へと仕舞っていくの瞳に映った自分の姿が微かに揺れるのを見て、三成はうっすら唇を開け、すうっと細く長い息を吐いた。
「…、早く寝ろ」
「三成も寝よ」
「貴様が寝たら寝る」
「一緒に寝よ」
「貴様が寝たら寝ると告げたのが聞こえなかったのか」
「一緒に寝よって言ったのが聞こえなかったの」
不機嫌そうに言い、は大きく寝返りを打つ。反動で折角掛けた毛布はいとも簡単に滑り落ち、三成の視界の端に、白い肌に浮き上がる鎖骨が映った。そのまま滑らせるように視線を上にずらせば、態とらしく尖らせた唇と、先程よりも揺れ幅が大きくなった眼が在る。季節の変わり目のように曖昧で確実な、夢と現の狭間の色。それを遮るように三成が掌をの額に添えると、は漸く観念したようにふにゃりと笑い、「…おやすみ」と呟いて三成の胸元へと顔を埋めた。
ややあって聞こえてきた寝息に、三成は今度は安堵と少しの寂しさが入り交じった息を吐き、再度毛布を肩まで掛ける。夏の終わり。季節の変わり目。夏でも秋でもない、油断をすれば簡単に見落としてしまう窪みのような日々。意識を夢の世界へと移し、今度はその暖かさを静かに受け入れたに、ふ、と小さく微笑み掛けると、三成は規則正しいリズムを刻むの背中に回した腕に力を込めた。