ブルー・イン・ザ・プールサイド


※公共のプールでの飲食は禁じられている場合があります。各施設のルールに従いましょう。
※麦先生の短編、『保留中につき』の続き風味ですが読んでなくても差し支えありません。そちらの作品はリンクから飛べます。(素敵な作品なので是非読んで頂きたい)

香りの文字書きワードパレット(@sashukaet3et様)より
⑩ジャスミン
・夜 ・華やか ・官能
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別に、悔しくなるわけでも楽しくなるわけでもなく、ただ『ああ、成る程』と思った。

否、それは嘘。実際は何だか得体の知れない、靄がかかったような気持ちでいっぱいになった。
花が咲いたような笑顔。口元に見える微かな照れ。隠しきれていない期待感。 あれはどっからどう見ても恋しちゃってる女の子の反応だろう!
いつもどこからともなく、頼んでもいないのに恋の噂を届けてくる慶次じゃなくても解る。
覚えのある息苦しさと早鐘の様に鳴る鼓動に苛まれながら、私はスマホをスカートのポケットにしまってベンチから立ち上がる。
7月の日差しは今日もきつい。ユーレイみたいに色白な“あの子”は、一体どんな日焼け対策をしているのだろうか。
知る術もないし別に絶対知りたいとも思わないどうでもいい事を考えながら、今一度視線を数メートル先のふたりに送る。短い髪が良く似合う女の子の隣で、私が良く知る快活な笑みを浮かべる自分の恋人、元親。奴をキッとひと睨みし、私はその場から逃げるように立ち去る。
行く当てなどない。
それに、そもそも私が何でこの、最高に空気の悪い喫煙所脇のベンチなんかに座っていたかと言うと、元親の試験が終わるのを待っていたからだ。なのに、その本人から兎に角一旦遠ざかりたくて。一刻も早くそうしないと、どうにかなりそうで。
気が付いたときには既に走り出していた。

*

“元親に想いを寄せている女の子が彼と同じ学部に居るらしい。”
3日前の金曜日。そんな話を、私にとっては元親と同じくらいの付き合いの長さである友人の慶次から「ここだけの話なんだけどさ」という、在り来たりな前置きと共に聞いた。
実際の期間よりも長く感じる梅雨が明け、漸く夏が来た。1年や2年の頃に比べたら履修科目が少ない分、だいぶ楽になったような気がする期末の課題祭りにも終わりが見えてきた、そんな日だった。
「……で?」
口を衝いて出た、簡素と呼ぶのも躊躇われる一文字に驚いたのは慶次だけでは無い。鈍く可愛げのない音を産み出した私自身、無意識のうちにでっち上げた即席のポーカーフェイスの下では大いに動揺していた。
しかし、それは『自分の恋人に想いを寄せる人がいる』という事実に対してではない。慶次の話を聞いた途端、突如として五月蠅く鳴り始めた鼓動と、陸に打ち上げられた魚になったかのように息苦しくなった事に対してだ。いや、本当の所はどうなのだろう。よくわからないと言うのが、今は正解かもしれなかった。
「……えっ、他に何か言う事無いの?」
「例えば?」
「なんか、ほら、『嘘ー!』とか」
「だってホントの事でしょ?慶次、私に嘘ついたことないじゃん」
「そりゃーそうなんだけどさ」
なんだかなあ、と米神をぽりぽりと掻きながら困ったように笑う慶次を尻目に、「物好きな子も居るもんだね」と私は呟いた。 3限終わりのこの時間、キャンパスの外へ続く並木道を往く学生は意外と多い。私や慶次の様に、これからアルバイトに向かう人。駐輪場脇の喫煙所に向かう人。サークルに行く人。時間を潰す目的で一旦外へ出る人。速足で教室へ向かう人。すれ違う人々の中にはなんとなく見覚えがある人も居れば、初めて見るような顔もある。学部も学生の数も多いこの大学は、3年通ってもまだまだ知らない人がわんさかいるのだから、そりゃあ元親の事を好きだとか言ってる稀有な女の子のひとりやふたり、居ても可笑しくはないのではないかと思う。 息苦しさは慶次と話しながら歩いているうちに落ち着いたが、頭上から降る蝉の大合唱同様に、鼓動はまだ五月蠅い。あつい。なんだか頭も痛い。
ちゃん、知ってる?それ、ブーメランって言うんだよ」
「うん、知ってる」
「俺、もっと驚くかと思った」
「驚いてはいるよ。あいつの何処が良いんだろうなーって気になるし」
「……あ。噂をすれば」
「へ」
大学の敷地外まであと数十メートル程のところ。私が背負っているリュックの持ち手部分を引っ張り無理矢理静止をし、慶次は「ほら、あの子あの子」とわざとらしく声のトーンを落として、控えめに指を差す。木々の隙間から差し込む日差しが眩しい。私は目を細めながら先を辿る。その終着点にはなんともまあ、小柄で愛らしい顔立ちのお嬢さんが陽炎さながらゆらゆらと歩いていた。 短く切り揃えられた茶色い髪。オーバーサイズのTシャツにショートパンツ。右肩にはアメコミの柄のトートバッグ。ややゴツめの編み上げブーツは、ドクターマーチンの物だろう。
元親と同じ学部と言う事は、工学部って事か。いやいやあれはモテるでしょ。
古き良き少女漫画的な解り易いぶりぶりの可愛さではないけれど、小動物と同様、男女問わず誰からも愛されそうな、そんな雰囲気の子だった。
っていうか慶次も噂をかぎつけるって事は、自分の気持ちを公言してるって事だよねあの子。なんか凄いなあ。
「何あの子。めっちゃ可愛いじゃん」
「な?1年だって」
「ふうん」
その後、慶次は彼女の出身地だとか、入っているサークルの事だとか、何か色々と喋っていた気がするが、私の耳には情報としてではなくノイズとしてしか入って来なかった。
ラジオの周波数を合わせているときのような、あの不安定な音。BGMと呼ぶにはあまりにも酷いそれを頭の中に響かせ、私は「彼女は元親のどこが好きなんだろう」とひとり考え始めようとする。が、それと同時にもう一つ頭にふっと浮かんだ疑問があった。

(っていうか、私は元親のどこが好きなんだったっけか)

先程投げたブーメランは見事手元に返って来るかのように見せかけて、そのまま私の脳天に直撃してしまった。汗が額を伝う。日差し、蝉の鳴き声、その他諸々。考えたいのに、それら全てが邪魔で集中できない。まったく、これだから夏ってやつは!

*

人生で初めて人を好きになったのは、小学校の時。学年で一番足が速い男の子だった。
その次の恋は中学。勉強はあんまり得意じゃないけど、話が面白く、気づいたらクラスの中心で笑ってるような子。
高校では何か、周りに流されるがままふたりの人と付き合った。うちひとりは卒業してからもずるずる関係を続けたりなんかもしたけど、結局別れた。比較的新しいが、今となっては夜中に飲むブラックコーヒーくらい苦い記憶だった。
私がそうやって過去好きになったり、好きだと思い込んでいたりした男たちの顔を並べ、そこに昼間見た眩しいツーショットを丁寧に重ねていると、「なーなー、ハンバーグ食っていい?」という元親の気の抜けた声がして一気に現実に引き戻された。
「……好きにすれば?自分のお金だし」
「よし」
腹減ってたら勉強なんかできねえっての。怠そうに言って、カラフルなメニューを閉じ、店員に注文をする元親を見て自然に出てきた短い溜息を吐くと、彼は怪訝な顔をした。
「なあ、。何かあったか?」
「……。……何かって何?」
「いや知らねぇけど。何かおかしくねぇ?」
「はぁ?」
自分でも吃驚するくらい冷めた声が出た。虫の居所が悪くなって、背中をぎゅうぎゅうと背もたれに押し当てる。いつもは気にならないのに、後ろの席に座っている女子高生グループが上げる甲高い笑い声が今日はやけに耳障りだと思った。
「妙に機嫌悪そうだし。さっきだってテメェが喫煙所で待ってるつってたのにいくら待っても来ねえしよ。やーっと連絡来たと思ったら『さいぜ』って。三文字だぜ?何かの暗号かと思って深読みしちまうだろ。あいうえお作文のお題か?スマホ持ちたての爺さんでももっとマシなメッセージ寄越すわ」
「別に。いつも通りでしょ」
妙な所で鋭い奴め。
私が再び視線を手元のメロンソーダからスタンドに立てかけてある間違い探しに移しながら皺を寄せた眉間に、元親は気づいただろうか。
いつも通りなんかではない。そんな事は、自分が一番わかっていた。
でも厄介な事に、私はそれを指摘されてすんなり「はい、いつも通りじゃないです」と認められる程素直な人間では無い。
ましてや私をいつも通りじゃ無くしている原因を作っている張本人に、そう簡単に告げられるはずなど無いではないか。
こうなってくると、もう誰が悪いのかわからなくなってくる。
元親?“あの子”?余計な事を吹き込んできた慶次?
どれも違う。堂々としていればいいのに、勝手に悩んで事を大きくしようとしている私が頂点に立つ。どう考えても。
「……。あーそうかよ」
視界の隅っこで元親は不貞腐れた声を上げる。先程、“あの子”の横で浮かべていたものと比べると、天と地ほどの差がある表情。“あの子”はたぶん知らない顔。
それを見ても、やはり思い出せない。わからない。
何でこんなに息苦しいのかわからない。
残りふたつの間違いも、見つからない。

*

そもそも、顔が広く、快活で面倒見の良い元親の周りには何時だって誰かが居た。
圧倒的に男の子の方が多いけれど、彼の昔馴染みの中には女の子も何人か居る。
じゃあ彼女達と、“恋するあの子”の差は一体何なのだろうか。
「奴に明確な好意を抱いているか否かの違いだろう」
「……ま、そうなるよね」
“元親の昔馴染みの女の子”のひとり、孫市はそう言って私を地を懸命に這う蟻でも見るような目で見た。
何を当たり前の事を聞いているのか此奴は。そんな風に思われているに違いなかったし、自分でもそう思った。
好意を抱いているという事は自分と同じ土俵に立っているという事。それぞれの好意を向ける相手自身がそれらをどう取るかは分からない。選ばれないかもしれないし、捨てられるかもしれない。だから多少不安になったり面白くないと思ったりするのは当然。
しかし、今回の場合は話が少し変わってくる。相手が恋人という、自分が既に占有権を持っている存在であるのだから、気を揉む必要は無い。(例外も無くは無いが、少なくとも、私たちの場合は。)今までにそのような経験が無く、耐性が無い状態なので深く考えてしまうのは致し方のない事ではあるが。
そのような事を辞書か何かを読み上げるかのように淡々と告げる孫市に「何か、わかってはいたけど改めて言語化されると笑っちゃうし、照れちゃうね」と言うと、彼女はいつもの調子で「からすめ」と冷ややかに笑った。
「じゃあ孫市もさー、慶次の周りに居る女の子たちを見て『面白くない』って思ったりすること、あるの?」
「前田が此方に向ける好意が一方的である事をお前は忘れてはいないか?」
「……うーん、そうでしたね」
なんとまあ可哀そうな慶次。
私は胸の奥で合掌し、「そろそろ行かなきゃ」と、リュックを肩に掛け立ち上がる。
折角試験が全部終わった週末だと言うのに、何故昼過ぎからバイトなんて入れてしまったのだろうと、若干の後悔が過ぎった。
「……
ふいに、改まった様子で呼ばれて座っていた椅子をテーブルの中に入れている手を止める。
「何?」
「今日、バイトは何時に終わる」
「えっと、6時半。なんで?」
何か用事があっただろうか。
明日から夏季休暇だというのに、一方的によく解らない話を聞かせてしまったという負い目もあり、もし何かの誘いであるならば乗るつもりで理由聞いた。
が、孫市は「解った」と言って唇の端を微かに持ち上げただけで、あとは顔の横で手を2回振るに留まった。
はて。何が解ったのか、私には解らない。
少し寒いくらいに効いている食堂の空調。それがまた、私の思考を鈍らせる。

*

そういえば元親の顔を最後に見たのは、週の頭。逃げ込んだサイゼリヤで彼がハンバーグを食べているのを見た時だった。
それから何度か連絡は来ていたが、野暮ったい感情の全てを試験と課題のせいにしてうやむやにしてしまっていたから、何だか彼の存在自体が懐かしく感じてしまう。たった数日なのに、妙な話だ。
そんな風に思ったのは、バイトを終えて従業員口を出て、灯ったばかりの街灯に照らされる見慣れた銀髪が視界に飛び込んできた時だった。
バイクに寄り掛かるようにして腕組みをし、スマホを弄る目つきの悪い男。見間違える筈が無かった。
「元親、」
「……おう、
私に気付くやいなや、挨拶もそこそこにヘルメットを投げて寄越す。
だからアンタはいっつも言葉が足らないの。
心の中で毒づきながらも、我ながらすっかり慣れた手つきでそれをキャッチし胸の前でぎゅっと抱く。
こうしてバイト終わりに元親が迎えに来る事自体はすっかり珍しい事では無くなったが、来る時は必ず事前に連絡をくれる。
それが今日は無かった。ということは、つまり――

(そういうこと、ね)

日は落ちたがまだまだ蒸し暑い。それなのに、どうしてか指先は冷たく、少しだけ震えていた。
「ボサっとしてんじゃねえよ。早くそれ被って乗れ」
被るべきか否か。こうやって迷っている間にすっかり支度を整えた元親がバイクに跨りながら声を掛ける。促されるがままにしていると、過ぎし春の日の事が思い出され、私はヘルメットの下で小さく笑った。
「何処行くの」
「いいから。しっかり掴まっとけ」
ええい、臨むところだ。ここ数日分のモヤモヤした気持ちまで全部を抱きしめるかのように、半ば自棄になっていつもより強い力で元親の体に手を回す。 それを合図に、エンジン音と共に心地の良い風がふたりを包んだ。

早送りされる風景の行きつく先。それが何処なのかを悟ったのは、“市民プール入口”という、街灯に照らされた錆びた看板を目にした時だった。
速度を落とし、元親はがら空きの駐輪場にバイクを止める。
「行くぞ」
リアボックスから膨れたコンビニの袋を出しながら、数分ぶりに掛けられた声。バイト先を出た時よりもまた一段階暗くなった世界の中を歩き、慣れた様子で建物の中に入っていく元親に慌てて続く。
先程目に留まった看板同様、建物自体は年季が入っているが、清掃が行き届いているおかげか中は清潔感があり広々としていた。 スニーカーと靴下を脱ぐと元親はこれまた慣れた様子で受付のおばさんに挨拶をし、途中にあった“更衣室”の表示を無視してずんずんと奥へ進む。
裸足になっているせいでぺたぺたと面白おかしく鳴るふたり分の足音が、私の鼓膜と心臓を心地よく震わせた。
アルミ製の戸を開けた途端包まれる、塩素と草の匂い。薄暗かった廊下と眩しすぎるライトのせいで目が眩む。
思わず翳した手の向こうで、元親はただニッと誇らしそうに笑っていた。
「何、ここ」
「市民プール」
「それは知ってるけど……」
そういう事が聞きたいんじゃなくて、と私が続けようとすると、
「この時期、ナイトプールとかいう洒落た名前で無料開放してんだけどな。宣伝が下手すぎていつ来ても誰も居ねぇんだよここ。昼間は小中学生だらけなのに。笑えんだろ」
「はあ」
「だから偶に来てはこういうことするってワケよ」
元親は言って、コンビニの袋からペプシの缶を取り出し、顔の横で自慢げに揺らす。缶に纏わりつく水滴が少し明るすぎるライトと、それに照らされる水面に反射して宝石みたいに光っている。それはそれは華やかで尊い光だった。
転ばないようにプールサイドを歩き、元親に促されるがまま淵に腰掛け、シャツワンピースの下に履いていたジーンズの裾を折り上げて足先を浸ける。
想像以上の冷たさに「うげ」という、まるで官能的とは程遠い声を上げる。暫くの沈黙があった後、ふたり分の笑い声が夜の海さながら、静かなプールサイドに響いた。
「いいね、ここ」
元親が買ってきた飲み物を受け取り、ぱしゃぱしゃと水面を冷たさに慣れてきた足先で弄びながら言う。
ちらりと横を見ると、元親は「夜なのにあっちいな」と文句を言い、さっきのペプシの缶を頬に当てていた。
「いいだろ?気に入ったか?」
「うん、すごく」
「へへ」
得意気に笑う声とプシュッという開放的な音が重なる。
ここ数日で一番晴れやかな気持ちを抱きながら、私は空を見る。
先程まで下の方にオレンジが残っていた空は見事な濃紺に塗り替えられ、元親曰く『地元に比べるとこっちは全然見えりゃしない』星々が点々と瞬いていた。
その中でも一等輝く白い星。詳しい彼に訊けば、何という名前なのか教えてくれるだろう。しかし、今は他に訊きたい事があった。
「……で、孫市には何て言われたの?」
「……なっ!?」
今までのどこか得意気で自信たっぷりな振舞は何処へやら。孫市の名を出した瞬間、元親の顔色はみるみるプールの水のように青くなり、「あの、いや、なんつーか、」と発する言葉がたどたどしくなったので、私は思わず笑ってしまった。
「……と、とりあえず、『に会いに行け』ってよ」
「えっ、それだけ?」
「それだけだよ!でもホラ、俺もこないだからずーっと引っ掛かってたっつーか……何か言ったか?とか、やらかしたか?とか。やったなら聞いて謝んねぇとだし」
「……」
「ここなら家からもそう遠くねぇからじっくり話せるかと思ってよ」
言い終えると元親は視線を誰も居ないプールへ泳がせ、無造作に髪を掻く。
ずーっと。
足先で水面をなぞり、元親の口から出てきた言葉を反芻する。
そうしていると、私の中に出来上がった氷はたった今、彼の熱とことばで完全に溶け切った事に気付いた。

行動力はある癖に、妙に慎重になってしまう所。
昔馴染みにせっつかれると断れない所。
でも結局は、強引に人を連れまわす所。
照れた時に耳先だけ赤くなる所。

“あの子”も、元親のこういう所が好きになったのだろうか。
否、そんなことはもう、どうでも良くなっていた。
「ごめんね、元親」
私は今、隣で口を濁しているこの愛しい生き物の全てが好きなのだという事を思い出したから。
「…………は?」
忘れてて、ごめんね。
予想していなかったであろう、私の謝罪の言葉に、元親は今日一番の素っ頓狂な声を上げた。
元親の手の中にあるペプシの缶みたい。つう、と彼の頬を伝う汗を眺めながら、再び口を開く。
「ごめんねって言ってんの」
「ごめ……?……お前、何かしたのかよ?」
「それはナイショ」
前のめりになって問う元親を躱し、けらけらと笑い声を響かせて私はペットボトルの蓋を開ける。
私がコンビニで決まって買う、白い花がパッケージに描かれたこのお茶の深く濃厚な香りは、私たちの“今”が始まった季節の匂いに似ている。
「……変な奴」
「自分でもそう思う」
「そうかよ」
そうだよ。
変で、意地っ張りで、忘れやすくて、嫉妬深くて、面倒くさい!
言い返す代わりに足で水を掛ける。やめろ!という元親の声を聞きながら水面に映った自分の顔を見る。そこには、“あの子”に負けないくらい、いや、それ以上の大輪の花を咲かせている女が揺蕩っていた。