Goldrushed!

#6


ちゃん、次の出動んとき俺が最高得点出したらデートしよ?」
「しません」


向かい側のデスクに座りなにか作業をするでもなくただ頬杖を付き、こちらに暑苦しい視線を送り続けるだけの彼を一蹴する。
彼は「相変わらず冷てぇな~」などとぼやきながら椅子の背もたれに上半身を預けた。
そんな彼の様子を見て私は溜息を吐く。

――さて、こんな一連の流れを繰り返すのは果たして何度目だろうか。もはやデジャヴとかそういうレベルではない。
先日も同じようなやりとりをしているところを見ていた他の社員に「ちゃんのツッコミにも安定感というか、それを通り越して貫禄が出てきたね」と言われ、人知れず項垂れたことを思い出す。
しかし、彼と過ごす時間が長くなることに比例してツッコミの技術が上がっていくのは不本意ながら、まことに不本意ながら、自分でも感じていた。
相変わらず彼が何を考えているのか、本音はどうなのか、出会いから半年近く経とうとする今も理解することができない。
『そういう人間なのだ』と割り切ってしまえば楽なのだろうが、私の性格上、それは彼のことを理解するのと同じくらい難しいことだった。
耐えきれず他部署の先輩や元同僚たちに愚痴を聞いてもらうこともあったが、皆揃いも揃って『なんか楽しそうじゃん』と目を輝かせながら言う。
私は彼と漫才コンビを結成するためにこの部署に配属されたのだろうか。
そんな馬鹿馬鹿しいことを考えてしまう程度に、私は追い詰められていた。

「じゃ、私ちょっと席外しますね」
次々に浮かんでくるネガティブな感情を拒絶するように首を左右に振りつつ、机上に広げられたファイルやら書類やらを簡単に整理しながら立ち上がると、彼は前のめりになりながら顔を顰めてこちらを見る。
「え、どこ行くの?俺を置いて」
「部長と打ち合わせです」
「はぁ~ん?ちゃんも大変だねェ」
「その間に始末書ちゃんと書いてて下さい。さっきも言いましたけど、昼から一件雑誌の取材ありますから」
「えー?じゃあ良い子にお留守番できたら…」
「何もしません!!!!」
彼の言葉を遮るようにばたん、と勢いよくノートパソコンを閉じると、彼はやれやれと言うように肩を竦める。
その姿を横目で見ながら私は足早に、部長の待つ会議室へと向かった。

-----------------------------------

「で、ライアンとは上手くやってるかい?」
月末の定例報告と打ち合わせを終えると、部長がファイルでぱたぱたと顔を仰ぎながら私に問いかけた。
「何ですか、藪から棒に?」
苦笑いを浮かべながら聞き返せば、部長はいつもの穏やかな笑顔を浮かべたまま「いや、気になって」と答える。
部長とは普段、業務に関する話しかしない。
勿論その業務の話にはライアンのスケジュールについても含まれているのだが、私たち2人の人間関係について問われるのは私が記憶している限りでは初めてのことであった。
珍しいこともあるものだ、と思いつつ少し考えた後、私は今思っていることを率直に述べた。

「そうですね…未だに何考えてるのかわかんないし、私のツッコミのスキルは上がる一方だし、胃に穴が空きそうなほどイライラすることもありますが、仕事に対してはそれなりの意欲が感じられますのでなんとか耐えてます。でもギリギリです」
「ははっ」
「笑い事じゃないですよ」
「ごめんごめん」
まあまあ、と静かに怒る私を制止するように部長は左手を翳す。
普段関わる人物の中でも年長者である部長ならば、私の苦労を理解し何か的確なアドバイスをくれるのではないかと一瞬期待したが、この様子では期待するだけ無駄のようだ。
やはり、私の苦労を理解してくれる人は私以外に居ない。
内心肩を落としつつ、私はヒーロー事業部に戻ろうと荷物を纏め始めると、部長は短く咳払いをした後、口を開いた。

「でもねぇ、こないだ君の代わりに彼の撮影に付き添ったとき、彼が君のことを褒めてたよ?」
「ほめ…?え…?」
部長の言葉に、私の書類を集める手が止まる。

――褒める?

この人、今褒めるって言った?誰を?私を?聞き違いだろうか。
予想だにしなかった部長の発言に言葉を失い、ただ目をぱちぱちとさせる私を真っ直ぐに見つめながら、部長は続けた。

「『少しうるさいけど、ちゃんが居たら安心して仕事ができる』ってね」

「……冗談、ですか?」
眉を顰め顔を強張らせながら聞くと、「冗談言ってどうすんの」と部長は呆れるように笑った。

「彼から信頼されてるんだね、君は」

-----------------------------------

「あ、ちゃんおかえりー」
室内に入ると同時に、ライアンの底抜けに明るい声が降りかかる。
「戻りました。書類、できました?」
「ばっちり!」
じゃじゃーん、と謎の擬音付きで顔の前に掲げる姿に、思わず小さな笑みを漏らす。
「お疲れ様でした」
差し出された書類を受け取り目を通していると、彼は不審そうな顔で私の顔を覗き込んだ。
「…なんですか?」
ちゃん、良いことあった?」
「えっ」
「なんか嬉しそう」
「…内緒です」
ええー!気になる!と喚く彼を尻目に自分のデスクに着き、パソコンを開きながら、静かに部長の言葉を今一度脳内でリフレインさせる。

『彼から信頼されてるんだね、君は』

(もう少し、もう少しだけがんばってみよう、かな)
私の前ではそんな素振りは微塵も見せないが、少なくとも内心では頼りにしてくれてる彼が居るのだから。
向かい側で首を傾げながらこちらを見つめる彼を視界の端に置きながら、私はやりかけだった仕事を再開させた。